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Self Liner Notes『迷走経路』
2021.07.10
MINI ALBUM『迷走経路』は、
2013年にリリースした
『反面教師』以来となる、全国流通盤。
タワレコ等のCDショップや
Amazon等の通販サイトでお取り寄せ可能です。
➖ Self Liner Notes ➖
私が作詩や作曲を始めたのは、7歳の頃だった。
しかしここ数年の間に、
その衝動はすっかり失せてしまった。
大して才能がない代わりにあった、あの強い衝動。
その根源にあった“猛烈な寂しさ”自体、
どんどん薄れて行き、
敬愛する人に尻を叩かれでもしないと、
埋もれるままに埋もれていたくなっていたし、
多くの人のニーズに応えるには、
全く別のキャラを演じていた方が良く。
もはや伊吹留香という表現者は、
私の中でもオワコンになりつつあった。
けれども、
このコロナ禍が生んだ時間的余裕の中、
まだ音源化されてない作品たちと
久々に向き合ってみたら、心の奥底に、
ヘドロのように堆積してる思いに気付かされ。
それらを無視せず、
歌うことで浄化してやることこそが、
今の私が取り組むべきミッションだと感じた。
かつて避けて通れなかった、幾つもの道。
振り返るとそこには、
目指してた場所が見えなくなろうが、
【ここでは止まりたくない】という一心で
進んできた自分もいて。
タイトルの“迷走”には、迷いながらも走る、
という、ポジティブな意味合いを込めた。
迷走なんて、なるべくせずにいたいものだけど、
迷うのは選択肢があるから、
悩むのは可能性があるからだし、
そういう時があったっていいんだ、と言い続けたい。
1. ウォッチャー〔作詩・作曲:2012〕
私は悲しみや怒りを抱きやすい人間だけど、
それは感受性が豊かだからというより、
度量がないからで。
その狭い心に踏み込まれたくないがために、
理論武装を始めたりしてしまうことが、よくある。
さらに、攻撃的な言動に走りたくなる時は、
必ずと言っていいくらい、羨望まじりの関心や、
身勝手な期待があったりもする。
そんな風に、悪しきものだと解っていながら
退治しきれずにいるものは、
自分の中にも沢山あって。
この曲には、他人を睨みつけてるその眼差しを、
もっとオノレの側にも向けてみたらどうだい?
と言われてるような気分にさせられるし、
FTFさんが手掛けてくださったリリックビデオにも、
繰り返し見ることで
ハッとさせられる場面が結構ある。
全曲リモート録音という条件下ながら、
この曲は特に、
生々しいバンド・サウンドを欲してて。
プロデュースは、おなじみのタケオ兄貴が率いる
KAZUKO BANDというバンドに依頼。
したらば、細かな指示は
何もしなかったにもかかわらず、
イメージの遥か上を行くアレンジで返ってきて。
とりわけ、苛立ちの奥にある
憂いを現してくれてるかのような
和芽さんのピアノが加わった時は、
鳥肌が立つほど感動した。
メロディーもキャッチーだし、
1曲目に相応しい存在感になったと思う。
2. 脱獄囚〔作詩・作曲:2006〕
春に配信シングルとしてリリース済みのこの曲。
私は過去に2曲、MVを制作していただける
機会に恵まれたものの、
どちらも自身の納得の行く出来にならず、
お蔵入りにしてしまい。
以来、プロの方を巻き込んでの映像制作に
消極的になっていたのだけど、
ずっとこういうのを創りたかったんです!
というものを、この曲で、
初めてお見せすることができた。
担当してくださった菅野祐樹さんに、心から感謝。
3. disillusion〔作詩・作曲:2009〕
いわゆる倦怠期が描かれているこの曲は、
コード付けの段階からすでに、
これまで発表してきた曲にはないような
雰囲気が出ていて。
サウンド・プロデュースも、
あえてお願いしたことのない人にお任せしたくなり、
昨年秋のライヴで久々の再会を果たせた
菊池真義さんに依頼。
菊池さんは、私が17歳の頃、
「天才」などと評してもらっていた
音楽事務所の方から紹介され、
生まれて初めて入ったスタジオで、生まれて初めて
オリジナル曲を演奏してくれたギタリストで。
リズム隊のお二人に至っては、全く面識もなく、
皆さん本当に、私の人物像や
趣味嗜好に左右されずに、
楽曲そのものが纏いたがってる音を
追求してくださって。
アンニュイながら、温かみもあり、
毒々しい曲たちの中で、
ほっと一息つかせてくれるような
役割を担えてるんじゃないかと。
4. 身の錆〔作詩・作曲:2012〕
悪口ばかり言いだす人に囲まれてる時
というのは、自分自身も
悪口ばかり言いがちになってる時が多いし、
オノレの弱さや愚かさに気付こうとせず、
オノレの正しさだけ信じ抜こうとしてても、
発端にある憂さは晴らしきれなかったりする。
その名の通り、“自業自得”とか“自分次第”ってことを
強調してるような内容の曲だけど、
抗いがたいストレスが多くなっている今、
防ぎうるストレスに
目を向けさせてくれる曲でもある。
低音域から中音域はハスキーで刺々しく、
高音域では弱々しくも澄む、
というのが私の歌声の特徴で、
わりと後者を使ってる曲の方が
好まれやすいのだけど、
当人は、前者を使う曲の方が歌ってて気持ちが良く、
今作の中では、これが最も「私らしい」と感じる。
5. コントラスト〔作詩・作曲:2009〕
私の10代の頃からの夢は、
紅白に出ることでも武道館に立つことでもなく、
ただ、人と愛し合えるようになることで。
当時の私は、それを叶えられていそうな人たちが、
恨めしくてしょうがなかった。
いつも劣等感や敗北感でいっぱいだった。
でも、さぞかし幸せなんだろう、
と決め付けてたその場所に辿り着いてみると、
そこは何かしらの犠牲の上だったり、
新たな試練の連続だったりもして。
安息の地なんか、生きてる以上どこにもないのかも、
と思うようにもなった。
当初はこれも、
ヘヴィーでラウドなサウンドを欲してて、
こんな風に軽快なサウンドを纏って返ってきた時は、
かなり違和感を覚えずにいられなかったのだけど、
さすがは最も長くサポートしてきてくれた
タケオ兄貴、今の私の声に合う音を、
私以上に解ってらっしゃった。
こう、エグ味のある心境をも
韻を踏みながら描ききれたのは、
疎ましい感情ほど音にして楽しみたくなってしまう、
私という表現者の性(サガ)ゆえだと思う。
「脱獄囚」と同じく、菅野祐樹さんが
手掛けてくださったこのリリックビデオは、
それを可視化してくれてるかのよう。
6. ライフライン〔作詩・作曲:2012〕
この曲も、春に配信シングルとして
リリース済みだけど、今作の最後に改めて聴くと、
より響くものがあるんじゃないかと。
当初は、ピアノやストリングスは入れず、
もっとエレキギターが際立つようなアレンジを
イメージしていたものの、
サビのコードもJ-POPの王道進行だし、
結果的には、FANでない人たちにも
親しみやすい仕上がりになったと思う。
一方で、あの人が歌ってくれたら
もっと良くなるだろうに、と、
他のボーカリストさんたちの声が
過ってしまう曲でもあり、そのVer.も、
必ずや実現させたかったりする。
とは言え、このミニアルバムの制作は、
私が私として歌う意味、
みたいな所に立ち返れる機会にもなったし、
エンジニアさんを立てず、
ボーカルもコーラスも自宅で一人で録り、
OKテイクも自分だけで決める、
なんて、商品としては初めてで、
これが今の私の限界値です、
という所まで振り絞ることができた。
もっと大衆に受けるような曲を作らないと、
とかよく言われるけど、
私はそういう曲に共感しがたく、
そこからハミ出してしまうような気持ちを
自分の曲に詰め込んできたし、
僅かでも、こういう曲たちを
必要としてくれる人たちを大事にしたい。
そして、こういう曲を歌いたい、
という衝動が残ってる限り、細々でも、
歌い続けたい。